ミッションオイルやデフオイルをまとめてギヤオイル(ギアオイル)と総称します。ただし「似たようなもの」ではありません。MTとデフでは指定される規格が違い、入れ間違えるとシンクロを傷めることがあります。この記事では規格の読み方・粘度・交換時期を整備士が解説します。
| 結論 | 内容 |
|---|---|
| ギヤオイルとは | MT(マニュアルトランスミッション)とデフ(ディファレンシャル)に使う歯車用のオイルの総称 |
| MTに入れる規格 | API GL-4(車種によりGL-3指定もある) |
| デフに入れる規格 | API GL-5 |
| 粘度の表し方 | SAE J306(75W-85、75W-90、80W-90など)。エンジンオイルのSAE J300とは別の体系 |
| 交換時期 | 自分の車の取扱書「メンテナンスデータ」の指定に従う。目安は下記 |
実例として、トヨタGR86の取扱書ではMTに「トヨタ純正マニュアルトランスミッションギヤオイルLV 75W(API GL-4)」、デフに「トヨタ純正ディファレンシャルギヤオイルLX(API GL-5、SAE 75W-85)」が指定されています(出典:トヨタ自動車 GR86取扱書 メンテナンスデータ)。同じ車でもMTとデフで規格が違う。ここがギヤオイル選びの出発点です。
ギヤオイルとは

ギヤオイルとは「ミッションオイル」や「デフオイル」を総称して呼ばれる名称になっています。
ですがギヤの特性が異なるため、使用されるオイルにも若干差が出ることもあります。構造的に複雑で負荷がかかりやすいデフオイルには硬いオイル、ミッションはデフよりも若干やわらかめといった区分をされるときもあります。
API規格ではGL-4やGL-5と分類されています。この数字は「どちらが上等か」ではなく「どの歯車向けか」を表すもので、MTにはGL-4、デフにはGL-5を指定する車両メーカーが大半です。ギヤオイルを選ぶ際に迷う方が多いポイントなので、規格の中身とやってはいけない組み合わせを順に解説していきます。
ミッションオイル
マニュアルトランスミッションに用いられるオイルとなります。ATやCVTとは全く異なるオイルになるため、この点は留意しておいてください。
マニュアルトランスミッションには「平歯車」や「はすば歯車」と呼ばれる並行軸のギヤが使用されています。
平行に複数のギヤが噛み合っているため、両方のギヤの間には適切な油膜が保たれていないと摩擦による摩耗など、ギヤの劣化・破損につながるため高粘度のオイルが必要とされています。
デフオイル
デファレンシャルギヤに用いられるオイルです。規格ではマニュアルトランスミッションと同じAPI規格が用いられています。
「ハイポイドギヤ」と呼ばれる、食い違い軸のギヤを使用しています。平行に嚙み合っておらず、MTの平行ギヤよりも噛み合いによる負荷が非常にシビアなのが特徴です。
そのため、ミッションに用いるオイルよりもより高粘度で極圧剤が多く含まれたオイルの使用が好まれます。
エンジンオイルとの違い
一番身近なエンジンオイルとの違いは粘度の表し方と高さにあります。エンジンオイルは0W-20や5W-30のようにSAE J300で表しますが、ギヤオイルはSAE J306という別の規格で表します。低温側は70W・75W・80W・85W、高温側は65・70・75・80・85・90・110・140・190・250の等級があり、75W-90や80W-90のように組み合わせて表記します(出典:ENEOS 石油便覧「自動車用潤滑油」)。数字が同じでもエンジンオイルとギヤオイルで粘度そのものは違うため、「エンジンオイルの90番」のような読み替えはできません。
エンジンオイルの役割は、エンジン内を循環することによる洗浄や冷却、潤滑などです。エンジン内部の金属同士の接触はそこまで高圧ではないため、各金属間の滑りを良くする比較的薄い油膜で覆われていれば問題はありません。エンジンオイルの規格はエンジンオイルのAPI規格、粘度はエンジンオイルの粘度の記事で解説しています。
対してギヤオイルの場合はギヤ同士が噛み合い、接触部分の圧力が高いため極圧添加剤を配合することで油膜の低下を抑えてより高圧な摩擦、摩耗にも耐えることができます。ギヤオイル独特のツンとした匂い、硫黄系を中心とした極圧添加剤の影響です。
ギヤオイル選びに重視する点

ミッションオイルの交換か、デフオイルの交換かでどの規格のオイルを選ぶかが決まってきます。
| 用途 | API規格 | 粘度の例 |
|---|---|---|
| ミッションオイル(MT) | GL-4(車種によりGL-3指定) | 75W、75W-85、75W-90 |
| デフオイル | GL-5 | 75W-85、75W-90、80W-90 |
選ぶ順番は「規格→粘度」です。まず取扱書の指定規格(MTならGL-4、デフならGL-5)に合わせ、そのうえでメーカー指定の粘度を選びます。GL-5はGL-4の上位互換ではありません。MTにGL-5を入れてはいけない理由は後述します。
ATやCVTはギヤオイルではなく専用のフルードを使います。自分の車がどれに当たるか分からない場合はMT・AT・CVTのトランスミッションオイルの見分け方を先に確認してください。
ギヤオイルに用いられる規格

エンジンオイルと同様に、ギヤオイルにもAPIが定めた規格が存在します。
規格については別の記事で解説をしているのでより詳しく知りたい方はこちらも参考にしてください。
関連記事:エンジンオイルのグレード(規格)とは|SPやSNの意味を解説
◆ギヤオイルのAPI規格
| API分類 | 用途・現状 |
|---|---|
| GL-1〜GL-3 | 低負荷の歯車向け。現在は生産されていない(GL-3指定の古いMTにはGL-4を使う) |
| GL-4 | 穏やかな速度・荷重で使われるスパイラルベベルギヤ・ハイポイドギヤ向け。MTの標準規格。GL-5より極圧添加剤を減らした処方 |
| GL-5 | 高速または低速高トルクで使われるハイポイドギヤ向け。デフの標準規格。現在API試験が行われている唯一のGL分類 |
| GL-6 | 生産されていない |
| MT-1 | トラック・バスなど重量車のノンシンクロMT向け |
ENEOSの石油便覧では「現在はGL-5の規格試験のみ実施されており、GL-4はGL-5の添加剤配合量を減らしたもの、GL-1・GL-2・GL-3・GL-6は生産されていない」と説明されています(出典:ENEOS 石油便覧「自動車用潤滑油」)。つまり乗用車で実際に選ぶのはGL-4かGL-5の2択です。
GL-5をマニュアルトランスミッションに入れてはいけない理由

「数字が大きいほど高性能なら、MTにもGL-5を入れれば安心」。これは間違いです。
GL-5はデフのハイポイドギヤを守るために硫黄系の極圧添加剤を多く含みます。この添加剤は鉄には効きますが、銅・真鍮などの黄色金属に対しては反応して腐食させる性質があります。MTのシンクロナイザーリングは真鍮製のものが多く、GL-5を入れるとシンクロが侵されてギヤの入りが悪くなったり、摩耗が早まったりします。オイルメーカーのRed Line Oilも、自社のMT用GL-4オイルについて「大半のGL-5オイルに含まれる反応性の硫黄が真鍮シンクロを傷めるため、それを含まないGL-4処方にしている」と説明しています(出典:Red Line Oil MT-90 製品ページ)。
Gulf Oilも「マニュアルトランスミッションにはGL-3またはGL-4を指定する車両メーカーが多い」「GLクラスの選択は車両メーカーの指定に従う」としています(出典:Gulf Oil FAQ「ギヤーオイルのGL-5とは」)。整備の現場でも、MTの指定がGL-4ならGL-4を入れる。これが原則です。
例外は、取扱書がMTにGL-5を指定している車、またはメーカーが「GL-4/GL-5兼用(黄色金属対応)」と明記している製品を使う場合だけです。判断に迷うときは自己判断で入れず、取扱書を確認するか整備工場に相談してください。
ギヤオイルの交換時期

| 用途 | 交換時期の考え方 |
|---|---|
| ミッション(MT) | 取扱書のメンテナンスデータの指定が最優先。指定が無い車の整備現場での目安は2万km前後または車検ごと |
| デフ | 同上。目安は5万km前後または車検2回ごと。LSD付きは指定が短いことが多い |
上の距離はあくまで整備現場での目安です。まず自分の車の取扱書で「メンテナンスデータ」や「定期交換部品」のページを開き、ギヤオイルの交換指定があるか確認してください。GR86のようにメーカーが「交換はディーラーに相談」としている車もあります。
エンジンオイル同様、ギヤオイルも劣化すれば性能は落ちます。ギヤの入りが悪くなった、ミッションやデフから異音がする、オイルが黒く濁っている。こうした症状が出たら距離に関係なく交換の合図です。交換時期の詳しい判断はトランスミッションオイルの交換時期の記事にまとめています。
ギヤオイルが潤滑している駆動系の仕組みはトランスミッションの基礎と駆動系の仕組みで解説しています。




